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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)2号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人辯護人熊谷誠上告趣意について

しかし公判期日における訴訟手續の證明については刑訴第六四條の制限規定があるから、法定の資料以外の資料による證明はこれを許さないものと解すべきであるが、書面による公訴の提起その他公判期日以外の訴訟手續の有無及び適否については、かかる制限規定が存在しないから、必ずしも他の資料による立證を妨げるものではないと解すべきである。又公訴の提起は所論のごとく書面による要式行為であるが、一旦、適式になされれば足るのであって、必ずしも常にかかる書類の現存することを絶對的要件とするものではない。殊に本件のような天災事變等不測の事故に因り起訴状その他の書類が滅失したような異常の場合は、もとより法の豫想しないところであるから、他の資料にして、合理的な疑念を打破して或る事実の存立を認識せしむるに適する限り、これによる立證を許すものと解するのが相當である。然るに原判決擧示の各書類はいずれも右のような資料として適切であり、これらを総合すれば本件被告人に對し、被告人及び犯罪事実を特定した適式な起訴状による公訴の提起があったことは疑念を挿む餘地がないから、これらの資料に基き本件につき適法な公訴の提起があったことを認めた原判決は正當であって所論のような違法はない。

よって刑訴第四四六條により主文のごとく判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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